モース硬度|鉱物の硬さを理解する総合ガイド
宝石によって傷つきやすさが異なるのはなぜでしょうか?
その秘密は、モース硬度という興味深い概念にあります。
ドイツの鉱物学者フリードリヒ・モースによって開発されたこのスケールは、鉱物の相対的な硬さを測定する標準化された方法を提供します。
モース硬度ってなに?
モース硬度は、鉱物の引っかき抵抗を特徴づける定性的な順序尺度です。1から10までの範囲で、各数字が異なる硬度レベルを表します。テストは、ある鉱物が他の鉱物を引っかくことができるかどうかを観察することで行われます。
重要なのは、モース硬度が線形ではないということです。つまり、硬度9の鉱物と硬度10の鉱物の差は、硬度1の鉱物と硬度2の鉱物の差よりもはるかに大きいのです。
一般的な宝石とそのモース硬度
ダイヤモンド|モース硬度10
モース硬度10の宝石はダイヤモンドのみで、地球上で最も高い硬さを誇ります。
ダイヤモンドのモース硬度は10で、これは2位のコランダム(モース硬度9)に比べて何倍もの硬度があります。具体的には、ダイヤモンドの硬度は7,000~8,500であるのに対し、コランダムは1,600~2,000です。そのため、ダイヤモンドはダイヤモンドでしか削ることができません。
しかし、ダイヤモンドは世界一硬いにもかかわらず、割れやすい性質も持っています。これは「劈開(へき開)」と呼ばれる、特定の方向に割れやすい性質があるためです。
コランダム(ルビー・サファイア)|モース硬度9
モース硬度9を持つ宝石はコランダムで、これはダイヤモンドに次ぐ硬さです。
コランダムという名前はあまり馴染みがないかもしれませんが、ルビーやサファイアはこのコランダムに分類されます。
トパーズ・スピネル・エメラルド|モース硬度8
モース硬度8の宝石には、トパーズ、スピネル、エメラルドなどがあります。
- |ゴールデンイエローやブルーの色合いで知られており、特にシェリー酒のような色合いのインペリアルトパーズが人気です。ただし、トパーズは劈開性という性質を持つため、衝撃に弱く、割れやすい点に注意が必要です。
- 鮮やかな発色が特徴で、かつてはルビーと間違われることもありました。イギリス王室の王冠にセットされている「黒太子のルビー」は、実はレッドスピネルであることが判明しています。
- |不純物が多く、割れやすい性質があります。
これらの宝石はすべて人間の歯(硬度7)よりも硬いため、歯で噛むと歯が欠ける可能性があります。
クォーツ(水晶)、トルマリン、翡翠|モース硬度7
モース硬度7の宝石には、クォーツ(水晶)、トルマリン、翡翠が含まれます。
- クォーツ|クォーツは、モース硬度7を持つ最も一般的な鉱物で、二酸化ケイ素(SiO₂)から成り立っています。透明で美しい結晶が特徴で、アメジストやシトリンなどの変種も存在します。クォーツは日常生活でよく接触する素材であり、ガラス(硬度約5.5)よりも硬いため、傷がつきにくいです。
- トルマリン|トルマリンは多彩な色合いを持ち、モース硬度は7から7.5です。赤、ピンク、青、緑など様々な色があり、その中でもバイカラーやマルチカラーのものが特に人気です。トルマリンは耐久性が高く、日常使いのジュエリーにも適しています。圧電性という特性を持ち、熱や圧力を加えると電荷を発生させることも知られています。
- 翡翠|翡翠は主に硬玉(ジェイド)として知られ、モース硬度は6.5から7です。翡翠は美しい緑色が特徴で、中国文化において非常に重要な宝石とされています。翡翠はその美しさだけでなく、強靭さも兼ね備えており、ジュエリーとして人気があります。ただし、翡翠は不純物を含むことが多く、そのため劈開性があり、取り扱いには注意が必要です。
オパール、ラピスラズリ、ターコイズ|モース硬度6
モース硬度6の宝石には、オパール、ラピスラズリ、ターコイズが含まれます。
- オパールはその独特な遊色効果で知られ、美しい虹色の輝きを持つ宝石です。モース硬度は5.5から6.5とされており、比較的柔らかい部類に入ります。オパールは水分を含む鉱物であり、そのため乾燥や衝撃に弱い点があります。ジュエリーとして使用する際は、特に注意が必要です。
- ラピスラズリは深い群青色が特徴的な宝石で、古代エジプトから愛されてきました。モース硬度は5から5.5ですが、加工されることが多く、ブレスレットやネックレスとして人気があります。主成分であるラズライトの他に、カルサイトやパイライトなどが含まれており、色合いに変化をもたらします。
- ターコイズは青色から緑色の美しい宝石で、モース硬度は5から6です。多孔質であるため、外的な要因に敏感ですが、その独特な色合いや模様から人気があります。ターコイズは古代からお守りや装飾品として重宝されてきました。
アパタイト、オブシディアン|モース硬度5
モース硬度5の宝石には、アパタイト(燐灰石)とオブシディアン(黒曜石)が含まれます。
- アパタイトは、モース硬度5を持つ鉱物で、さまざまな色合い(緑色、青色、黄色、褐色など)が特徴です。主にフッ素燐灰石として知られ、化学組成はCa₅(PO₄)₃(F, OH)です。アパタイトは、人体の骨や歯の組織に似た構造を持っており、成長期の子供のお守りとしても人気があります。また、「信頼」や「自信」を象徴する石とされており、人間関係を深める効果が期待されています。
- オブシディアンは、急冷された溶岩から形成された天然ガラスで、主に黒や灰色の色合いを持っています。モース硬度は5で、比較的柔らかいものの、鋭利なエッジを持つため、古代から道具として利用されてきました。オブシディアンは美しい光沢があり、装飾品としても人気がありますが、その硬さから傷つきやすい点に注意が必要です。
フローライト、マラカイト|モース硬度4
モース硬度4の宝石には、フローライトとマラカイトがあります。
- フローライト|フローライトは、モース硬度4の代表的な鉱物です。引っかきに対する抵抗力は低いものの、トルマリンに次いで多彩な色を持つことで知られています。純粋なフローライトは無色透明ですが、緑色や紫色が中心で、ピンク色や黄色などもあります。フローライトは、紫外線や熱を加えると鮮やかな蛍光色を放つため、和名では「蛍石」と呼ばれます。フローライトは劈開が4方向完全であるため、衝撃に弱く、割れやすい性質があります。
- マラカイト|マラカイトは、深い緑色の風合いが美しい宝石です。層になった独特の縞模様が特徴で、和名では孔雀石と呼ばれています。マラカイトは硬度が3.5-4と大変軟らかいため、乱暴に扱うと簡単に割れてしまいます。また、マラカイトは水や紫外線に弱い特徴があります。
カルサイト(方解石)|モース硬度3
モース硬度3の代表的な鉱物はカルサイト(方解石)です。
主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で、石灰岩の主な成分でもあります。貝殻なども炭酸カルシウムでできています。不純物を含まないものは無色透明ですが、含まれる不純物によって黄色、ピンク色、オレンジ、緑色、金色など様々な色になります。
板状、柱状、塊状、牙状など様々な形で産出されますが、一定方向に割れやすい性質(劈開)があるため、砕かれて小さくなっても、潰れたマッチ箱のような形になります。
石膏、岩塩、琥珀|モース硬度2
モース硬度2の宝石には、石膏、岩塩、琥珀が含まれます。
- 石膏は、モース硬度2を持つ鉱物で、化学式はCaSO₄·2H₂Oです。無色透明から白色の結晶が一般的で、亜ガラス光沢を持っています。石膏は非常に柔らかく、人間の爪で傷をつけることができる程度の硬さです。建材や彫刻材料として広く使用されており、特に石膏ボードや装飾品に利用されます。
- 岩塩|岩塩は、モース硬度2から2.5の範囲にある鉱物で、主成分は塩化ナトリウム(NaCl)です。透明から白色、時にはピンク色や灰色を呈することもあります。岩塩は非常に柔らかく、指で簡単に削ることができます。食用として広く知られていますが、装飾品やヒマラヤ岩塩ランプなどにも使用されます。
- 琥珀|琥珀は、樹脂が化石化したものであり、モース硬度は約2から2.5です。美しい金色や黄色を帯びた茶色の色合いが特徴で、時には昆虫などの内包物が見られることもあります。琥珀はジュエリーや装飾品として人気がありますが、その柔らかさから傷がつきやすいため、丁寧な取り扱いが求められます。
タルク(滑石)|モース硬度1
モース硬度1の宝石はタルク(滑石)です。タルクは、無機鉱物の中で最も柔らかい鉱物として知られています。
タルクは製紙、樹脂、ゴムの充填材として広く使用されています。また、その滑らかさと吸湿性から、ベビーパウダーや化粧品に多く使用されています。
モース硬度を参考にジュエリーを選ぼう
モース硬度を知っておくと、ジュエリーを選ぶ際に役立ちます。
普段使いのジュエリーには、モース硬度の高い宝石を選ぶのがおすすめです。ダイヤモンドやルビー、サファイアなどは、傷つきにくく、長く愛用できます。
硬度の低い宝石は、特別な日に身につけたり、丁寧にお手入れしたりするなど、大切に扱いましょう。
また、複数のジュエリーを一緒に保管する際は、硬度の高い宝石が低い宝石を傷つけないように、個別に保管するのがおすすめです。
まとめ
モース硬度を知ることで、宝石の選び方やお手入れ方法が変わり、より深く宝石の魅力を知ることができます。お気に入りの宝石を、モース硬度を参考にしながら、大切に身につけてみてください。
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